2017年7月13日
【第二部:躍進編】親父のすごさ 平成二十〜二十一年
社長に就任して二年間は、業績もさほど変化なく経過した。しかし、三年目の平成二十年(二〇〇八)、アルミ原材料価格が異常に高騰する一方で受注量も予想以上に伸び、対前年比で三十%近くも売上が伸びた。
しかし、やはりこれは裏付けのない好景気であった。その年の後半にあのリーマン・ショックが起こったのだ。この時初めて経済の恐ろしさを思い知らされたわけだが、今にして思えば、私自身にとって、とても良い経験、また良い薬だったのではないか、とも思っている。
実はこの激動期に、親父(会長)のすごさをまざまざと感じさせられた出来事があった。
この年(平成二十年)の八月、受注量の増加に対応すべく熱処理設備を導入することを熟慮の末決断し、そのための新工場建設の発注段階だった。すでに仮発注も終えたばかりなのに、突然、親父が「着工を延期しろ」と言うのだ。普段は、私に対してほとんど意見することのない親父が、この時ばかりは「嫌な予感がする。とにかくワシの言うことを聞け」と一歩も譲らないため、激しい口論の末、私は無念さを感じながらも親父の言うことを不承不承聞き入れ、着工を延期することにした。リーマン・ショックが製造業界を襲ったのは、その二カ月後の平成二十年十月のことだった。
結局は、翌平成二十一年七月に熱処理設備を導入したが、窮屈ながらも既存の倉庫建屋内に機械設備を収めることができたため、工場新設費用を半減させることに成功し、大変合理的な設備投資ができた。
この熱処理設備導入により、生産リードタイムが大幅に短縮され、不況の中でも「短納期対応」というかたちでお客様から好評価を受け、「差別化」につながる効果的な投資結果を得ることができた。
リーマン・ショック直前、アメリカ経済の変調を懸念するニュースは確かにあった。しかし、私を含め、特に製造業に従事する人たちのほとんどはその気配すら感じられていなかったのではないだろうか。改めて、親父のすごさを見せつけられた、私にとって大きな事件(ファザーショック?)だった。
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