【第一部：開拓編】事業の厳しさを実感　昭和三十八年

　創業当時の世相は前述の通りだが、こと商売となれば話は全く違う。何分経験と実績のない者がいくら顔を出して取引を頼んでも、県内の各企業はそれぞれ独自の下請協力会という固い「ガード」があり、なかなか相手にされなかった。仕事不足から、自ら得意先開拓と仕事探しに明け暮れる苦しい毎日が続いた。銀行を退職するとき、取引先だった多くの知人から励ましを受けたが、現実に助けてくれる人はほとんどなかった。世間の険しさと己の考えの甘さにようやく気づく始末だった。

　そんな昭和三十八年のある日、私が銀行で宇野気支店長の時に取引先として大変世話になり、大恩人である丸中機料店の中本社長に会い、あるヒントを教えてもらった。

　当時、石川県は細幅ゴム入り織物やその織機の生産が全国的にも高いシェアを誇り、しかも河北郡には県内の大半の台数が集中していた。その付属部品で一台に多数使用されている「糸巻用ビームフランジ（木製合板）」が、ナイロン系原糸の伸縮圧力で木ネジ締め付け部がはぎ取られ、多大な原糸の損失と労力の無駄が生じ、業者が困っているという話だった。

　私は直感的にアルミ製にすればと思ったが、その場合、鋳造・加工・塗装が必要となり原価がかなり高くなるため、売れるかどうかわからなかった。中本社長は私の立場を考慮されてか「お前が作れるなら千個ほど引き取って売ってやる」と言ってくださった。まとまった数量と鋳型を起こす注文を初めて取ることができ、本当にうれしかった。

　後になって、合板製との大きな価格差がネックとなって思うようにさばけず、結局、採算を度外視して処分したという。この話を聞き、中本社長がはじめから無理を承知で私を助けてくださったのだと知った。そのありがたさは今も忘れることができない。